「ねえ、偽装結婚しておいて、私がアッサリ記憶を取り戻したらどうするつもりだったの?」

 両親には、私が嫌がればすぐに実家に返すという類のことを言ったようだけど、果たしてそれは本心だったのか。

「実はあまり考えていなかった」

「ええ?」

 思わず景虎の横顔を見てしまう。彼は前髪から滴を垂らし、私の方を見て微笑んだ。

「絶対に、君がもう一度俺を好きになってくれるって確信があったから」

 自信満々な態度に、小さく驚く。

「ちなみに根拠は?」

「ない」

「ないの?」

 笑ってしまった。自分でも不思議なくらい、自然な笑い声だった。

 反響する自分の声を聞いて思う。私が景虎の妻になるのは、最初から決まっていたことなんじゃないかって。まるで物語のように。

「でも、よかった。私、初恋が実ったんだ」

「よかった、じゃない。あんな隠しメッセージ、普通気づくか? 下手したら俺たち、ずっと結婚できなかったかもしれない」