「だからって、あなたとは絶対に、絶対に結婚なんてしない! 私が好きなのは、景虎だけなんだから!」

 負けないくらい大きな声で怒鳴ると、店の入口が勢いよく開いた。

 店員が警察を呼んでくれたのかと思ったが、そうではなかった。そこにいたのは、手足の長いスーツ姿の男性……鳴宮景虎だった。

「景虎っ?」

 幻覚かと思った。だって彼は、まだ仕事中のはずだ。

 綾人も驚いたのか、目を見開いて固まった。景虎は大股で綾人に近づき、私の手首を掴んでいた手を放させた。

 骨が軋む音が聞こえそうなほど、綾人の腕に食い込む景虎の指。眉間の皺が、彼の怒りを物語っている。

「俺以外の男が萌奈に触れることは許さない」

 綾人は懸命に景虎の手から逃れようと身を引く。景虎がぱっと手を放すと、綾人は自分がつけた反動で床にしりもちをついた。

「君のような最低な人間にわかってもらわなくてもけっこうだが──」

 景虎は私を自分の腕の中に保護し、震える綾人を冷ややかに見下ろした。