「頼むぞ」
「うん。そういえばそのお嬢様を殴っちゃったんでしょ。それは謝ったの?」
「まだだ。連絡がつかない」
ここにいるけどね。全部聞いているけどね。
とはさすがに言えず、小さくなって壁と同化するように努めていた。
冷静になれ。景虎が言った通り、ひとりで対峙しちゃいけない。たとえどんなに腹が立とうと。
「一瞬殺しちまったかと思ったよ」
「それ。結婚したら保険金かけて殺すのもアリなんじゃね? 一生相手の親にへこへこするよりよくない?」
平気で恐ろしいことを笑って話す女性。
「ああ、そっか。それもいいな。両親もまとめて片付けるか」
「それだと疑われるから、嫁だけにしときな」
「お前、意外に悪知恵は働くんだな」
ふたりの押し殺した笑い声が聞こえてきた。
なにが悪知恵が働くだ。それぐらい、誰だって考えつくわよ。
っていうか、そもそも結婚する前から相手のことを殺すとかなんとか考えるひとが少ないけどね。
私はコーヒーカップを持って立ち上がった。



