綾人の方に私に対する愛があれば、こちらも急な婚約破棄に誠意を持って対応しなくてはと思っていた。が、現実はそうではなかった。
私は完全に、婚約者ではなく、お金として見られていたんだ。
手の中にあるコーヒーがどんどんぬるくなっていく。私の心も冷え切っていった。
「だからさ、お前友達の誰かを使って、例の御曹司を誘惑してくれよ。で、あっちの浮気の証拠を逆に突き付けてやるんだ。そうしたら萌奈は俺の元に帰ってくる」
「えー、めんどー。うちの友達にそういうことできそうな子、いるかなー」
まったく気のない声で返事をする女性。そりゃあそうだ。無関係の人からしたら、面倒臭すぎる提案に違いない。
「金なら払う」
「そりゃあ、それ相応にもらわないと割にあわないけどさー」
「うまくいけば御曹司と付き合って、そのまま結婚できるぞ。玉の輿だぞ」
綾人の猫なで声に、嫌悪感がせり上がる。どういう神経をしているんだろう、この人。
「んー、じゃあ夜にお店に行ったら聞いてみるよ」
夜の仕事ということは、彼女はキャバ嬢かなにかだろうか。



