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景虎との通話を終え、ホッと胸をなで下ろした。彼の態度は、私が記憶を取り戻す前と変わらずに優しかった。
早く会って、好きって伝えたい。
母が作ってくれた昼食を食べ終え、リビングでテレビを見ていてもそわそわと落ち着かない。
「そんなに居ても立っても居られないなら、景虎さんの会社に行ったら?」
「いやいや、そもそもずる休みしてるのにそれは無理でしょ」
母はろくに働いたことがない、元箱入り娘なので少し世間ずれしている。
「じゃあ、近くのお店で待っているのがいいわね」
「まあ、それなら……」
みんなが仕事なら、就業時間中に見つかることはないだろう。綾人に会いに行くでもなし、ひとりでも大丈夫かな。
いい年してお母さんと一緒じゃないと出掛けられないなんて恥ずかしいし。まだまだ頼ってばかりだけど、いい加減親離れしないと。
「じゃあ私、行ってくる」
一旦部屋に戻り、着替えて本棚から文庫本を一冊取り出す。暇つぶしには本が一番だ。物語に没頭していれば、余計なことを考えないで済む。



