突然の申し出に、綾瀬夫妻は目をぱちくりさせた。
『僕は、数か月前に娘さんと知り合い、ひそかに想いを寄せてきました。しかし彼女には婚約者がいると知っていたので、打ち明けることはできなかった』
萌奈への想いを自覚したのは、つい最近のことなのだが、それは黙っておいた。
綾瀬夫妻は、俺の言葉を聞き逃すまいとしているようだった。
『それは……今の婚約を破棄し、あなたの元へ萌奈を嫁がせるということですか?』
『そうです』
うなずくと、萌奈の父は腕を組んで唸った。
『ここまで証拠を突き付けられては、堺氏との縁談はなかったことにするしかないでしょう。しかし萌奈の意志を無視して、すぐにあなたと結婚というのは……』
『鳴宮さんは萌奈にはもったいない方です。萌奈はうちで療養させます』
ふたりとも簡単には了承しない。心から萌奈のことを思っているからだ。しかしこちらも、この機を逃すつもりはない。
『しかし、堺氏は簡単に引き下がるでしょうか? お嬢さんはとても素直な方です。優しく言いくるめられたら、ほだされてしまうかもしれない』



