『綾瀬か。今どこにいる』
『えっと……タクシーの中ですが、なにか』
萌奈の返事が涙声のように聞こえ、胸が締め付けられた。平静を装い、話を続ける。
『今から会えないか』
『えっ……』
『あんな泣きそうな顔をされたら、嫌でも気になるだろう。なにか俺に言いたかったんじゃないのか』
返事はすぐにはなかった。たっぷりと時間をかけ、やっと萌奈の声が聞こえた。
『副社長、あの──』
そのときだった。聞いたことのない衝撃音に、萌奈の声がかき消された。
『きゃっ』と小さな悲鳴が聞こえたような気がしたが、それも一瞬。
『綾瀬? 綾瀬! どうしたっ、綾瀬!』
返事はない。そのまま、通話は途切れてしまった。



