嫌味を言ってくる同僚のことで悩んでいるのかもと、ぼんやり考えていた俺に、父はさらっと言った。
『再来月だったかな。寿退社する予定らしい』
突然落ちてきた隕石が脳天を直撃したかのような衝撃を受けた。
『へえ……』
そうか。結婚するのか。
それ以上、声が出なかった。胸に重い石がのしかかり、気道まで塞がってしまったようだ。
『派遣会社社長の息子とだと。病院は慢性的人手不足だからなあ』
父のその言葉は、まるで萌奈が政略結婚の道具にされるとでも言っているようだった。
俺の脳裏に、落ち込んだ様子の萌奈の顔がちらつく。ただのマリッジブルーならばいいけれど、もしかして政略結婚させられるのが嫌で、悩んでいるとか……。
思わずそんな想像をして、苦笑を漏らした。政略結婚だとは限らない。萌奈は相手のことを好いているかもしれない。
ウエディングドレスを着て誰かのものになる萌奈の姿を想像すると、胸の石は余計に大きくなった。



