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昨夜、萌奈は帰ってこなかった。お義母さんのところにも連絡はないという。
まさか堺綾人のところにいるとは思わないが、心配で仕方がない。事件や事故に巻き込まれていないことを願うばかりだ。
俺は副社長室で、深いため息を吐いた。昨夜はほとんど眠れなかった。なんど携帯を見ても、萌奈からの連絡はない。
「副社長、お身体の具合でも悪いのですか?」
秘書が用事のついでにたずねてくる。ちょうど萌奈と同じくらいの年頃の女性だ。
「いや……」
幸運なことに、今急いで片付けなくてはならない仕事はない。こんな状態でなにをやっても、能率は上がらないばかりか、つまらないミスをしかねない。
「すまない。すこし休憩してくる」
椅子から腰を浮かせると、秘書は眉を下げた。
「本当に大丈夫ですか。医務室へ行った方がいいんじゃないですか?」
「ああ、大丈夫だ。すぐに戻るから」
俺は問い詰めてくる秘書から逃げるように、副社長室を出た。向かうのは図書室だ。
昼前。今は誰もが各部署で仕事をしている時間。図書室の利用者は俺だけと決まっている。



