「そうだ、萌奈」
思い出したように母がリビングの壁際に置いてあるチェストを探った。
「これ」
母が差し出したものを受け取って驚いた。それは事故の前に私が持っていた携帯だった。
「本当はね、壊れずに車内にあったの。警察もこれは事故と関係がないからと、すぐに返してくれたわ」
「そうなんだ……」
充電は切れ、画面は真っ黒だったけど、割れてはいない。いくら強く追突されたとはいえ、窓ガラスを突き破って路上に投げ出されたというのは今思えば少し無理がある。
景虎や両親は、なにか理由があって私に記憶を取り戻してほしくなかった。だから携帯を隠したのだ。
ここで詳しく話を聞こうとしても、母は「景虎さんに聞いて」と言うだけだろう。私は黙って携帯を握りしめた。



