次の日、退院させられる私は母と病室の片づけをしていた。

「ねえ、やっぱり私、実家に帰りたいよ」

 昨日はお館様……じゃないや。武将みたいな名前の美男のビューティフルオーラに圧倒されて、思いきり拒否できなかった。

 しかし、彼が帰ったあと、考えれば考えるほど不安が増してくる。不安でしかない。

 降って湧いた旦那といきなり新婚生活なんて。

「仕事をお休みして、昼間はうちに遊びに来ればいいわよ」

「そうじゃなくて。私、大学生の記憶しかないのに、いきなり主婦できないよ」

 恥ずかしい話だけど、私は家事のほとんどを母やお手伝いさんに任せてきた。

 二十五歳の私はどうだったんだろう。少しは色々なことができるようになっていたのかな。

「最初からうまくできる人なんていないわ。リハビリだと思って、のんびりやりなさい」

「でも……」

「鳴宮さんなら大丈夫よ。きっと、優しく見守ってくれるわ」

 母はせっせとボストンバッグに私のパジャマや着替えを詰めていく。

 全然、私を実家に引き入れてくれる様子はない。