本当にこの人と結婚していいのかな? これ、違うんじゃないかな?

 でも、両親の顔を見ると何も言えなかった。医者になれなかった私は、これ以上両親を失望させてはいけないといつも思っていた。

 景虎への淡い想いは飲みこんで、忘れてしまおう。淡いまま、海の底に沈めてしまおう。

 決意しても、次の日には図書室に足が向かってしまった。景虎に会えた日は嬉しくて、そうでない日は悲しかった。

 まるで小学生みたいな私の初恋は、いつまでも続かない。箱入り娘だって、それくらいはわかっていた。

 そうだ……この日私は、これで景虎に会うのは最後にしようと思っていたんだ。

 私物の本を渡したのは、彼の部屋に私の痕跡を残してほしかったから。気持ち悪いと思われようと、私の一部である本を、彼の近くに置いてほしかった。

 体は他のひとのお嫁さんになっても、せめて心だけは、景虎の傍にいたかった。

「いつ返せるかわからないが」

 好きだっていいたい。好きになってほしい。

 結婚なんて、やめたい。でももう後戻りはできない。

 せめて、せめて、この本だけは、あなたの傍に置いてください。大きな本棚の片隅でもいいから。