実娘のラブシーンを目の前で見せつけられ、さぞかし恥ずかしいのだろう。二人とも顔が赤い。

「記憶が戻らなくてもいい。それでも俺には、君が必要だ」

 彼は両親のことなどまるで気にしていないようだ。

 そっと私の手をとり、甲に軽くキスをする。

 まるで、眠り続けるお姫様を救いにきた王子様のようだった。

 しかし、彼のキスでも私の記憶は戻らない。

 彼と出会ってこれまでの記憶は、眠ったままだ。

 どう返事をしていいかわからず、私は唇を噛んで彼を見上げた。

 彼は切実そうに、私を見下ろしていた。