仕事中の交渉や会議は丁寧なのに、と私は追加で呟く。違う。本当に伝えたいのはそんなことじゃない。
唐突に、私は思い出した。私はこのとき、景虎に……。
「これ、貸してあげますから。温かい人間の心を取り戻してください」
違うの。わざと憎まれるような言い方しかできないのは、勇気がなかったから。
私、本当はあなたが好きだったの。初めて図書室で『冷血サイボーグ』と噂のあった副社長と出くわしたときは、心臓が止まりそうだった。
でも何度か顔を合わせるうち、あなたは私と同じ、本当に読書が好きなひとなんだってことがわかった。
あなたが本を読んでいるときにうっかり携帯が鳴ったりすると、鬼のような顔でにらまれたっけ。
会社の図書室の利用者はまばらで、わたしたちはいつでもふたりきりで会うことができていた。
私たちはお互いに、自分の好みの本をすすめることはしなかった。好きな本を楽しんでいる景虎の姿を見るのが好きだった。



