「ごめんなさい。私、あなたの名前もわからない」

鳴宮景虎(なりみやかげとら)だ」

 意外に古風な名前。戦国武将みたい。じゃなくて。

「鳴宮さん、いきなり二人の生活は無理です。もう少し落ち着くまで、実家にいさせてください」

 付き合った記憶もない人と、同じ屋根の下には住めない。

 帰るのを拒否すると、彼はとても傷ついたような顔でこちらを見返す。

「うう。その顔やめて……」

 罪悪感が茨のとげのように、私の胸を締め付ける。

「私の記憶が戻る見込みは今のところないんです。あったとしても、それがいつになるかわからない。あなたが辛ければ、離婚という手も……」

「やめてくれ。俺は離婚など、全く考えていない」

 彼は眉間に皺を寄せ、決然と言い放った。私は口をつぐむ。

「俺は君を愛している。君が事故にあって今日まで、かなり我慢をしてきたんだ。これからはずっと一緒だ」

「ええ……」

 ちらっと両親を見ると、さっと視線を逸らされた。