救急外来の冷たいソファで、私はひとりで会計を待っていた。

 あのあと私は一部始終を見ていたホテルの客が呼んだ救急車に乗り、父の病院に運ばれた。診断は「打撲と軽い脳震盪」。

 後頭部を車のミラーに打ちつけ、たんこぶができていた。一応ⅯRIも取られたけど、脳内の出血はなく、すぐ帰宅可能と判断された。

 頬の殴られたあとに注目した医師に事情を聞かれたけど、殴られたことは言わなかった。警察沙汰にしても、あれこれ根掘り葉掘り聞かれるだけで、辛さしかなさそうだし。

 口の中を多少切ったのか、血の味がしたけどそれもすぐになくなった。たいした怪我じゃなかったのはよかったけど……。

 私はぼんやりと救急車に乗る前のことを思い出していた。

 同乗しようとした景虎に、私はふにゃふにゃした口調で「来ないで」と断った。それでますます、彼は傷ついたような顔をした。

「被害者みたいな顔しないでよね……」

 散々待たされた挙句に湿布と痛み止めだけ出され、どっと疲れた体で会計を済ませた。