「顔色が悪い。大丈夫か」
私が一歩踏み出そうとすると、綾人が手を広げて妨害する。
「俺の婚約者を騙して横取りしたのはお前だな、鳴宮景虎。いったいどういうつもりだ」
「軽々しく名前を呼ばないでほしい。俺はお前など知らない」
「カッコつけたって無駄だ。俺は調べたこと全て、こいつに話したからな」
冷たく綾人を見ていた景虎の目が、私の方を見た。私はビクッと肩を震わせてしまう。
どうしてか、彼が怖い。彼は私と結婚していると嘘を吐いた。本当は入籍していなかった。
「何を聞いた、萌奈」
「え……っと」
彼の本当の目的がわからない。面と向かって裏切られるのが怖い。
なかなか言葉が出てこない私の代わりに、綾人が大声を出す。
「だから、全部だよ! お前がこいつを騙して」
「黙れ」
たった一言。それだけなのに、景虎のひと言は綾人の大声より威圧感があった。
黙った綾人越しに私を見る景虎は、大股でこちらに近づいてくる。
「萌奈、一緒に帰ろう。話はそれからだ」
長い手を差し伸べる景虎。綾人はその手を打ち払った。



