ホテルを出ると、私の足は止まった。綾人がまた舌打ちをする。
「どうしたんだよ。帰りたいんだろ」
さっさと先を歩かせようとする綾人の声は、私の耳を素通りしていく。私は、目の前のロータリーに入ってきた車に見入っていた。
黒のセダンは、出入り口の正面まで進むかと思いきや、私たちを迎えるように少し前で止まった。
運転席からひとりの男性が降りてきた。その姿を見て、私は息を詰める。
「景虎……」
ダークグレーのスーツに身を包んだ景虎が、険しい面持ちでこちらに向かってくる。綾人はずいと私の前に出た。
「萌奈、こちらにおいで」
景虎が私に向かって手を差し出す。綾人とは目を合わせない。
「どうしてここへ?」
「上田さんから、君が急に出かけたから心配だと連絡があったんだ」
彼が言うには、上田さんは落ち着かない様子で家を出て行った私にただならぬ気配を感じたらしい。つまり、家政婦のカンだ。
私はホテルに向かうため、タクシーにマンションまで迎えに来てもらった。そのタクシー運転手は簡単に割り出せたので、行先を聞いたのだという。



