こうまでしても、まだ思い出せない。夫である彼と出会ったときのこと、何度も抱かれたはずの夜も。

「余計な事を考えるな。今はただ、俺を感じていろ」

 彼は自らの唇で、私の無駄なおしゃべりを封じた。

 指先で慣らされた場所に、彼の熱が押しつけられる。全く知らない感覚に腰が引けた。

「待って……」

 未経験の少女でもあるまいに、無意識に彼の肩を押し返してしまった。涙の膜が張った目を瞬きさせて見えたのは、彼の切なそうな顔だった。その瞬間、胸に罪悪感が押し寄せる。

 彼が強引なのではない。私が、夫である彼を忘れてしまったのがいけないんだ。だからそんなに悲しそうな顔をしないで。

「あ、あの……ごめんなさい。大丈夫だから……」

 その後は恥ずかしくて、言えなかった。彼は返事の代わりに軽くうなずくと、ゆっくり時間をかけて私の中に侵入を果たした。

 久しぶりだからか、私の身体は初めて彼を受け入れるような痛みを覚える。が、すぐにそれは遠ざかっていった。