「そうだな。詐欺だといけないから、絶対にかけ直すな」
念押しして、彼はワインを飲んだ。私は素直にうなずいた。
食事を堪能したあと、景虎に誘われて一番広い野外デッキに出た。昔の有名な映画のキスシーンがこういうデッキで演じられてたっけ。その映画の豪華客船、沈没しちゃったけど。
美味しい料理でお腹が満たされていた私は、目の前に広がる夜景に一層幸せになった。夜のとばりが落ちた空は真っ暗で、地上の灯りが煌めいて見える。
「わあ……」
友達が行ったディナークルーズでは、デッキの手すりに人が集まり、みんなで携帯を出して夜景を撮りまくっていたと聞いた。ここにはそんな無粋なことをするひとはひとりもいない。
デッキに吹く心地いい夜風に髪をさらわれる。景虎が私の手を握り、尋ねた。
「寒くない?」
暑すぎず寒すぎず、ちょうどいい季節。むしろ気持ちがいいくらいだったので、私は首を横に振った。



