お抱え料理人。それもすごい。うちは父親が病院を経営しているだけあって健康にうるさい人だったから、基本は母が家族の分の食事を何品も用意してくれていた。もちろん、健康にいい減塩メニューで。脂肪や糖類も少なかった。
実家のことを思い出していると、グラスにワインが注がれた。前菜のお皿には、懐石風に盛り付けられた、旬の魚介を使ったオードブルが乗っている。
「美味しそう」
「まずは乾杯しよう」
彼に言われてグラスを合わせる。チンと小さな音がした。
グラスを口元に運ぶと、ワインを含む彼の唇が妙になまめかしく感じて、視線を逸らした。
私ってば、まだひと口も飲んでいないのに、酔っているみたい。
気を取り直して料理を口に運ぶ。新鮮な魚介から磯の香りを感じる。
「おいしい」
あっという間になくなったオードブルの代わりに運ばれてきたのは、フカヒレの中華煮込みだった。
「シェフに任せたから、和洋中、何が来るかわからない」
「すごい。なんでも作れちゃう人なんだね」
フカヒレを食べるの、久しぶり。さすがの母も家でフカヒレは煮込まないもの。



