雰囲気はすごく素敵なのだけど、私は違和感を覚えた。
「ねえ、他のお客さんは?」
ナイトクルーズやディナークルーズというものは、事前に予約した複数の客を乗せ出発するはず。しかし、私たちのあとにも先にも他の乗客の姿が見えない。
そういえば、出航受付カウンターにも人がいなかった。どういうことだろう。
「邪魔者はいない方がいい。貸し切りに決まっているだろ」
「ええっ。もしやこれ、個人所有の船?」
いくらなんでもクルージング会社の船なら、他の予約が入っているはずだ。
私が驚いたことに満足するように、彼は口の両端を上げた。
「俺のじゃない。社長の船だ」
「ひええ」
ちょっとしたクルーザーを持っている人はいるだろうけど、こんな大型クルーザーを個人で所有しているとは。そりゃあ予約もいらないはずだ。
「入社式とか、忘年会とか、そういうときにも使うことがある」
「船酔いの社員には拷問だね」
「ははっ。たしかにそういう感想もあるな」



