旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~


 いつも社内を交代で歩き回っている守衛さんなら、場所を知っているかも。

 ビルの方を振り向こうとすると、それを遮るようにバッグの中で携帯がけたたましく震えた。

「はいはいはい~」

 手探りでバッグから携帯を取り出そうとするけど、ポーチやら汗ふきシートやらマスクの入った袋やらが邪魔で、なかなかつかめない。

 仕方なく両手で持ち手を大きく広げて中を見た瞬間、震動はやんでしまった。

「あらら」

 結構長い間鳴っていたから、用事のある着信だと思う。

 携帯を探り当てると、待ち受け画面にメッセージアプリの通知アイコンが出ていた。

 タップすると、登録されていない相手から着信があったことがわかる。

 誰だろう……。

 画面を見ていると、ふと閃いた。

 もしや、あの人だろうか。アプリを設定しているときに景虎が消してしまった、男の人。名前はなんて言ったっけ。

 うーんうーんと唸る。

 事故に遭ったあとの記憶も思い出せないとは情けない。でも一瞬見ただけだったもの、しかたないよね。