旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~


 午後も誰かに敵意を向けられたりすることなく、平和に仕事をした。

 定時は五時。会社を出ると、まだ日が沈んでいなくて、なんとなく得した気分になった。

 どこかに寄って帰ろうかな。カフェとか本屋さんとか。

 ウキウキした頭に、ふと景虎のお小言が甦る。

 あー、いけない。まっすぐ家に帰らなきゃ。ひとりでいるときにパニックになったら困る。

 呪文のように繰り返されたせいで、私の中に『一人歩き=危険』のイメージがしっかり根付いてしまった。

 やだなあ。私いつまで、こんな生活をしないといけないんだろう。ひとりで出歩けないなんて、つまらない。

 景虎や実家の父母がいれば安心だけど、こうしたちょっとだけ空いた時間に呼び出すわけにもいかない。

 仕方がない、帰ろう。外出は景虎がいるときに満喫しよう。

 それに、私にはあの素敵な書斎があるじゃない。

 てくてくとタクシー乗り場に向かって歩いていた足がピタと止まった。

「そうだ!」

 暇なら、今から社内に戻って、図書室に行けばいいんだ。