「記憶の方は? 何か思い出せた?」
優しく聞かれ、私は力なく首を横に振った。
「相変わらず、二十歳以降のことは……。秘書課のことはたまに思い出すんですけど」
「そっかあ」
原田さんは綺麗な箸遣いで、食事を進める。
余計なことを言わない彼女が好きだ。興味本位で聞いてきてのではないことがわかる。
私は原田さんの優しさに甘えたくなって口を開いた。
「やっぱり、思い出さないといけないでしょうか」
「うん?」
「私が相手を忘れていても、相手は私を覚えているじゃないですか。だから一生懸命思い出そうとすると、めまいとか頭痛とか……体が拒否反応を起こしているんじゃないかって思うんです」
景虎のことを思い出さないといけないのに、彼に甘えてそれもままならない。
「そう。萌奈ちゃんがそう感じるなら、本当に体や心が拒否しているんじゃない?」
原田さんは水を飲み、言葉を継いだ。
「いいんじゃない? 今が幸せなら。無理に思いださなくても」
「そう……ですか?」
「あくまでも、『今萌奈ちゃんが幸せなら』だよ」



