旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~


「あ、あわ……」

「佐原ちゃん、睨まないの。萌奈ちゃんが怯えてるでしょ」

 原田さんが私の肩を抱く。佐原さんは「茶番に付き合っている暇はない」とばかりに無視し、素早く箸とお口を動かした。

 さっさと食べ終わった佐原さんは、トレーを持って立ち上がる。

「え、もう行くの? もっとゆっくりしていけば?」

「無理。せっかくの休憩時間だもの」

 佐原さんはちらっと私を見て、すぐに視線を逸らした。

 せっかくの休憩時間、嫌いな私の顔を見ずに違うところでゆっくりしたいというわけだ。

「あの、私がどこかに移動しますから」

 どうぞ座っていてください、と言わせてももらえなかった。

 佐原さんは私をまるきり無視して、早足で消えてしまった。

「放っておこうか。食べよう」

 原田さんの前には、私と同じ日替わりランチの小鉢の内容が違うものが置かれていた。

 私も箸をとり、もくもくと食事を口に運ぶ。胃が満たされてくると、沈んでいた気持ちが浮上してきた。