駐車場で車を降り、会社へは徒歩で向かう。

「私、あなたの後から行くね」

 景虎は、背が高くて華があって……とにかく目立つ。

 一緒に歩いていると余計に目立ちそうなので、先に景虎に行ってもらい、彼の姿が見えなくなってから建物に入ることにした。

「そうだな」

 彼も仕事とプライベートは分けたいひとらしい。じゃあ、あの副社長室でのキスはなんだったのか。人目がなければいいのかな。それともただの気まぐれか。

 景虎の背中を見送りつつ、花魁のようにゆっくりと歩を進める。

 と、後ろから名前を呼ばれたような気がして、振り向いた。

 しかし、後ろには数名の社員の姿がぽつぽつと見えるものの、私の名前を呼んでくるような知りあいはいなかった。

「気のせいね」

 くるりと踵を返して歩き出す。と、今度は後頭部に視線を感じた。

 振り返っても、やはり誰とも目は合わない。