おかしいなー。秘書課のメンバーの顔は思い出せたのに。どうして同じ会社に通っていて、他のことはサッパリなのかな。

 よっぽど頭の変なところを打ったのか……。

「そ、そうだ。そろそろ例の図書室に案内してくれてもいいんじゃない?」

 社内には景虎と出会った図書室があるはず。そこにいけば記憶の手がかりがつかめるかもしれない。

「仕事中に案内している暇はない」

 景虎は言い切った。

「終業後は?」

 食い下がると、彼はため息をついて私を見下ろす。

「最近仕事が立て込んでいるから、今日も何時に終われるかわからない。約束はできない」

「あ、そうですか……」

 仕事が忙しいんじゃあ仕方がない。

「じゃあ自分で探すよ」

 大変な作業になりそうだけど、景虎が手を貸してくれないなら仕方がない。

「暗くならないうちに帰れ」

 景虎は全然応援してくれる気配がなかった。

 この前みたいにちょっと怖そうな人に絡まれたら困るのはわかるけど、どうしてふたりの思い出の場所まで隠すようにするのか。

「思いだせ思いだせ」って追いつめられるのもしんどいけど、まったく協力しようとする素振りがないのも、不自然じゃない?

 聞いたらケンカになりそうだから、私は黙って彼の車の助手席に座った。