逃したくない、離したくない、そう思った。

考えるよりも先に手が出た。




いつだって俺が心を隠せないときは、

「………桃が絡むといつもそうよね、柚山は」


俺の心を見透かしたように、低い声は笑いを含めてぴしゃりと言い放つ。


得意げに笑うつり目の顔が、なんでもお見通しだと言わんばかりに俺を見ていた。



「なんで分かったかって?
わかりやすいんだもん、柚山」


あのときだって、あのときだって。

指折り数える彼女の目は空を見つめていて、

あの時のことやこの時のことを思い出してるんだろう。



「あんたらの会話聞いてるの好きだから別にいいんだけどね。

でもちょっとアドバイスするとね、
もうちょっとだけ素直な方が可愛いんじゃない?」


なにもかも分かってるような顔でさらりと言われた言葉に、
思わず下を向いた。

もうちょっと早く言って欲しかった、その言葉。