あれは、俺や桃山さんがまだ高一のころだった。

俺は、用事があって、保健室に来ていた。

保健室には、保健委員であろう数人の女子がいた。

「ねぇ、ここみちゃん。最近、小田原さん鬱陶しくない?」

「そうそう、ちょっと可愛いからって、森本くんとも付き合えて、調子乗ってるよねぇ」

出た…

女子が好きな、陰口。

俺は元々こういう類いの物が大嫌いだし、保健室に来るのは、またあとにしようと思い、振り返ったときだった。

「え~、そんなことないよ、喜菜は。いつも一生懸命だし、森本くんとも、真面目に付き合ってるし~」

俺は、耳を疑った。

こういう話には、いくら本音を言おうと思ってもなかなか言えないような、雰囲気が漂っているものだから。

でも、この子は、違った。

その雰囲気を破り、友達であろう小田原さんと言う人物をかばった。

そして、小田原さんの悪口を言っていた、女子たちは…

「え、っと、そうだよねぇ~!」

「あのっ、小田原さんのこと嫌いな訳じゃないから!」

と、言った。

この子は、すごい。

そう感じた。

さっきまで、人の悪口を言っていた人を、一瞬にしてここまで変えてしまうのだ。

俺は、自分を恥じた。

悪口言う人は嫌いだ、などと、ほざいておきながら、悪口を言う人を変えようとしなかった。

しかも、桃山さんは、悪口を言っていた子が、出来る限り傷つかない言葉を選んで。

そこから、桃山さんに、興味が出て、気づいたら、好きになっていた。

衝撃だった。

人を好きになるってこういうことなんだなって思った。

恋するなんて表現、大袈裟じゃないかと思っていた自分がバカバカしいくらい。

そこからは、もうどんどん彼女に惹かれて。

どうしようもなかった。