「あの、私、海外事業部で仲林くんと同期のものなんですけど。偶然仲林くんの社員証を拾ってしまいまして、それを届けに……」
鞄の中から証拠の品を引っ張り出してみせると、女性社員が私を見て微笑んでくれた。
「あぁ、そうなんですね。たまに、特別な用もないのに彼を見るためだけにここを通りかかる女子社員の方もいるので。疑ってすみません。声をかけてくるので、待っててくださいね」
そうなんだ。仲林くんも、なかなか大変だな。
しばらく待っていると、女性社員に話しかけられた仲林くんが、私に気付いて出てきてくれた。
「在原さん、ありがとう。失くしたかと思ってたから、ほんと助かった」
社員証を手渡すと、仲林くんが屈託のない顔で笑う。
「どういたしまして」
彼の笑顔と社員証を渡すときに僅かに触れた指先にキュンとしてしまったのは、不可抗力だ。
「じゃぁ、そういうことで」
「あ、ちょっと待って。在原さん、お昼もう食べた?」
さっと右手をあげて立ち去ろうとしたら、仲林くんが私を呼び止める。



