弱冷房の効いていた電車から降りると、湿気を孕んだ夜の風がその匂いを伴って顔に襲いかかってきた。

生温い感触のそれに、平日の残業後の私だったら不快感を顕に顔をしかめるところだけれど。日曜日の飲み会帰りの私は、そんなことも気にならないくらいに気分が良かった。

駅の改札を出てから自宅のマンションまでの道のりを、スキップしてしまいそうなくらい軽い足取りで進む。


松野くん、私服姿もかっこよかったなー。

同じ海外事業部に所属する同期の松野くんのことを思い出しながら、周りに他の通行人がいないのをいいことに、ニヤリと口元を緩める。

音響や映像機器を製造するうちの会社の海外事業は、毎年希望者の多い人気の部署だ。

海外販社や海外の取引企業とのやり取り、海外への出張に加えて、経験や実力によっては駐在員として各国で働くこともある。

そのため、英語力はもちろん総合的に優秀だとされる人材が集められてくる。

私たちが入社した4年前も、海外事業部を希望する新入社員が多かった。

そんななかで、海外事業部に配属された私はラッキーだったと思う。