「えっ、えっ、えっ?」

ベンチに座っていた湊の様子がおかしい。

頭を抱えて苦しそうにしていた湊を心配していたら急に名前を呼ばれた。

「流奈……」

その声がなぜかボワンボワンと頭の奥底に響く。

どうしてだろう。湊といるとどうしてこんな気持ちになるんだろう。

思い出さなければいけない人がいるのに、
どうしてこんなにも湊のことが気になるんだろう。

目が合った瞬間、息が止まりそうになった。

湊の目に薄っすら涙が浮かんでいる気がする。

湊はあたしが何か言うよりも前に、あたしの体をギュッと抱きしめた。

大きな腕に包み込まれた瞬間、妙な懐かしさが体中を駆け巡った。

湊は左手であたしの頭を支えるように抱きしめる。

あの人も……あたしをそうやって抱きしめてくれた。

包み込むように優しくあたしを……。