わたしにしか見えない君に、恋をした。


思い出さなければいけない大切なことを忘れているようなそんな感覚。

「俺も知ってる。愁人の姉ちゃん。大会の時とか、愁人のこと応援にきてただろ?」

「そういうんじゃなくて」

そういうんじゃない?だとしたら――。

「愁人、悪い。ちょっとわかんねぇ」

そう答えると、愁人は困ったように笑った。

「ですよね。すみません。さっきの話は聞かなかったことにしてください。あっ、でも……」

何かを言いかけた愁人。その言葉の続きが気になったものの、面会終了時間になり病室から出て行った。

俺はぼんやりとさっきの愁人の話を考えていた。

どうして愁人の姉ちゃんは俺のことを知ってるっていたんだろう。

県代表メンバーとして愁人とチームメンバーになったから?

それしか考えられない。

でも愁人は違うと言っていた。

「全然わかんねー」

俺はポツリと呟くと、大きく伸びをして布団にくるまった。