誰にだかは分からない。

ただ、ぼんやりと頭の片隅に残っている気がした。

「いや、これ以上湊先輩に迷惑かけるわけにはいかないから」

愁人がなんのことを言っているのかすぐに悟った。

「別にあれはお前のせいじゃないし」

あの日、愁人を偶然見かけた俺は金山と揉め、倒れた拍子に運悪く頭を打ち付けた。

そして一カ月間、目を覚まさなかった。

ほんの数時間だけ眠ったような感覚だった俺は心底驚いた。

まさかそんなに長い間眠っていたなんて。

意識が本格的に戻ると、体中にたくさんの管が繋がれていたことでそれを実感した。

けれどそれは日に日に少なくなり、今は自由の身だ。

奇跡的に脳に損傷はなかったものの、一か月も寝たきりで体を動かさなかったことで様々な弊害が残った。

筋肉も相当落ちてしまっただろう。

幸いにもしばらく入院してリハビリを続ければもの通りの生活に戻れると主治医に言われた。

「つーかさ、さっき親に聞いたんだけど、お前の姉ちゃん事故にあったって本当か?」

「はい……」

愁人はそれっきり俯いてしまった。