「なんでもありません」

今さらそんなことどうだっていい。

そう答えると、先輩はにこりと微笑んだ。

「俺がどうして流奈ちゃんに構うのかって?」

心を読まれたようでなんだか嫌だ。あたしが何も答えないでいるのをいいことに先輩はペラペラとしゃべりだす。

「俺、中学の時から流奈ちゃんのこと可愛い子だなぁって思ってたんだよね。ほらっ、中学の時からよくサッカーの大会、愁人のこと応援しに来てたじゃん?俺の周りの奴らも流奈ちゃんのこと可愛いって言ってる奴多くてさ。流奈ちゃんのこと彼女にできたら自慢だなって」

なんだかよく分からないし、申し訳ないけれど興味もない。

「あっ、でも一番の理由は流川かな」

「るかわ……?」

そんな人知らない。

あたしが聞き返すと先輩はフッと意地悪な笑みを浮かべた。

「流川湊。流奈ちゃんは知らない?」

「るかわ……みなと……?」

湊って、それって。

「先輩、それって――!!」

「あっ、やべっ。もう行かなくちゃ。ちゃんと俺のこと見ててね!じゃね!」

「先輩、待ってください!!」

引き留めるあたしのことを無視してひらひらと手を振って駆けだした先輩。

先輩は湊のことを知っているの……?

流川湊。湊の名前は……流川湊なの?

あたしは買ったホットコーヒーを握り締めると、全速力で駆け出した。