「ねぇ、明子のことどう思う?」

体育の時間、サエコが唐突にそんなことを口にした。

あたしとナナは目を見合わせてサエコの言葉を待つ。

「うちらって前までは明子と一緒にいたじゃん?いつの間にか抜けたけど」

「だね。だって、それってそもそも明子が原因じゃん~?抜け駆けしたから」

ズルいあたしは黙っていた。否定も肯定もしたくなかったから。

「あたし、正直今でも許せないんだよね。明子のこと」

サエコが目を細める。

「それはあたしだって一緒だよ~!!ねぇ、流奈?」

「うん……そうだね」

そんなこと思ってもいないくせに、話を合わせるためだけにナナに合わせる。

「じゃあさ、ちょっとやっちゃう?」

「えっ?何を~?」

「少し懲らしめようか」

「ふふっ、それいいかも」

サエコとナナがくすくすと悪意のある笑みを漏らす。

嫌な予感がする。

あたしはそっと明子に視線を移した。

体育の授業で使うバレーボールの入ったボールかごを一人で運んでいる明子。

ボールかごは重く普段は3人ほどの生徒で運んでいる。

それに気付いているのに、クラスメイトは誰一人として明子を手伝おうとはしない。

サエコが明子のことを毛嫌いしているのをクラスメイト達は知っている。

だから、手を貸そうとはしない。

手を貸せばサエコの気分を害し、めんどくさいことに巻き込まれることを知っているのだ。

胸がギュッっと締め付けられて心の中がモヤモヤする。

何で誰も手伝ってあげないのよ。明子が可哀想。

そう心の中でクラスメイトを非難する。

でも、一番非難されるべきはあたしだ。あたしなのだ。

明子は数か月前まであたしたちのグループの仲間だった。友達だった。

それなのに、今は一人ぼっち。

サエコに嫌われてしまったから。

クラス中がボスであるサエコに気を使って明子をはれもののように扱う。

その中に、もちろんあたしも含まれていた。