「姉ちゃん、ちょっといい?」
時計の針がもうすぐ日付をまたごうとしているとき、コンコンッと部屋をノックされた。
「入っていいよ」
そう答えると、部屋の扉が開き弟の愁人が顔を出した。
愁人は1歳年下の弟だ。サッカーの実力は県で5本の指に入るらしい。
女の子にモテるのに、サッカー一筋の愁人は彼女をつくる気がないらしい。
姉のあたしからするとちょっぴりもったいない気もする。
「アンタ、こんな遅くまで部活やってたわけ?」
「いや、今日はちょっと色々あって」
部活のジャージを着ている愁人。なぜかジャージは薄汚れ、顔が赤く腫れている。
明らかに元気のない愁人の顔を覗き込む。
「何?」
「いや、実はさ…」
「ん?」
「金、貸してほしい」
「いくら?」
「1万」
「何に使うの?」
「色々。交通費とか」
「なんの?部活の?」
「まぁ、そんなとこ」
「だったらお母さんにいいなよ。そのぐらい出してくれるでしょ」
そう言って突き放したものの、愁人は俯いたままだ。
「……部活で何かあったの?」
明らかに憔悴している愁人の様子が気にかかる。
でも、愁人は何も答えない。ただ俯いて唇を噛みしめてギュッと拳を握り締めているだけだ。
「あっ、そうだ。20時ぐらいに電話した?あたしお風呂入ってて出られなかったんだよね。かけ直したけど、アンタでなかったから」
スマホに愁人からの着信が残されていたのを思い出す。
「あぁ、あれ。ごめん。間違った」
「そうなの?」
愁人の目が左右に動く。何かを隠している様子の愁人が気にかかる。
「……しょうがないなぁ。分かった。貸すよ。でも、ちゃんと返してね」
「ごめん、姉ちゃん。ありがと」
あたしは仕方なく愁人に一万円を手渡した。



