じゃああの涙の意味は。ただ別れを惜しんで泣いていた訳ではない?
彼女が置いていった手紙は涙でよれてしまった便箋にありがとうの文字が書かれていただけ。涙でシワになっている箇所の多さを考えると悩んで絞り出した言葉が“ありがとう”しか無かったのだろう。
皆を救う手立てが、これだったのか。召し使いや兵士が口々に言っていた、“クロエラさんはついていくと思っていた”。もし、これが奥様の耳にも届いていて同じ事をお考えになっていたとしたら。
俺たちが残る事で城を出た時間を誤魔化そうとした?
ただ単純に直接別れを告げるのが辛かったという事も考えられる。でも、それだけなら次の日の早朝に出れば良い話だ。侵入者の中心人物であった男もそう言って引き止めたはず。
いや、奥様の襲撃の命令を気にするのなら早朝に出た方が優位だったはずだ。だって舞踏会で零時が回ってから次男が正式に王座に就くのだから、早朝にはもう奥様は命令できなくなっていた。
なぜわざわざバレるかもしれないという危険をおかしてまで舞踏会中に出ていかなければいけなかったんだ。何が彼女をそうさせた?どうして誤魔化す必要があったんだ?