「……誰?」
外灯の明かりしかないからよく見えないけれど、若い女性のようだ。
……仕事のあとの用事って、あの人と会うこと?
誰なんだろう。仕事の依頼者とか? それならば、仕事と言えばいい。でも拓海はそういう言い方はしなかった。
心臓がドクドクと嫌な音を立てる。拓海はスマホを取り出して私からのメッセージを確認する様子もなく、女性と話している。
そのときふいに、女性が拓海の方へ体を近づけた。ストレートの長い髪がさらりと揺れる。拓海は女性の頭を無造作にかき混ぜると、二人で笑い声を上げた、ように見えた。
拓海が、私にしか見せないと思っていた無防備な笑顔で、私以外の女性と笑い合っている。
『……でも、夏美には忘れられない人がいるんだよな』
『夏美の気持ち、よくわかるよ。だって俺も、似たようなものだから』
突然脳裏に過ったのは、拓海から契約結婚を申し込まれたときに、言われたセリフだ。
拓海が忘れられない人って、ひょっとして……。
――嫌だ、これ以上見たくない。


