お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~


 店を出ると、いまだ昼間の熱を孕んだ、湿度を感じさせる空気が纏わりついた。ネオンに照らされた明るい空には、黒くて濃い雲が浮かんでいる。もうすぐ雨が降り出すかもしれない。


「綾さん、傘持ってます?」

「折り畳み持ってる。夏美ちゃんは?」

「私はすぐに拓海が来ると思うので」

「まったく、お熱いことね」と言って、綾さんが肘で私をつつく。今夜は始終こんな感じで冷やかされっぱなしだった。

「それじゃ、邪魔者は去るわね」

「お先に失礼します。飲み過ぎちゃダメですよ」

 歩道を歩きながら、綾さんが私を振り返りつつ手を振っている。


 旦那さまをあまり待たせちゃ悪いからと、綾さんは私を次のお店に誘わなかった。

 この後は行きつけのバーに行くという綾さんと店の前で別れ、拓海にメッセージを送る。なかなか既読がつかないので、返事を待たずに、大通りまで出てみることにした。


 スマホを片手に大通りに出ると、ちょうど見覚えのあるSUVが路肩に停車したところだった。

「あっ、拓海……」


 車に近づこうとして、思わず足を止めた。私の知らない女性が、助手席に乗っている。