いきなり耳元でボソッとささやかれ、心臓がバクバクと音を立てる。

「もうっ、脅かさないでくださいよ乾さん」

 誰もいないと思ってつい漏らしてしまったひとりごとを、まさか乾さんに聞かれているとは思わなかった。化粧室帰りだろうか、乾さんはメイクポーチを片手に、にやにやした笑みを浮かべている。

「顔真っ赤よ、夏美ちゃん」

「乾さんがいきなり話しかけるからじゃないですか」

「ううん、電話してるときから真っ赤だったわよ」

 ひとりごとだけじゃなく、乾さんに電話の内容まで聞かれてたのだろうか。

「言っとくけど、立ち聞きなんてしてないわよ。こっちにくるときに、電話しながら顔赤くしてる夏美ちゃんに気づいただけ。まあ、相手は旦那さんだろうなって想像がついたけど」

 乾さんはくふふと笑いながら、まるで私の心の中を見透かしたようなことを言う。やはり人生の先輩は侮れない。


「そんなことより過保護って?」

「ああ、今日綾さんと飲みに行くって言ったら、迎えに来るって言うんです。自分は仕事が忙しくて、いつも遅くまで残ってるのに」

 理由を話すと、乾さんは「あら、まあ!」と目を輝かせている。