「本当に平気なのに」

『……わかれよ。暗い時間に夏美を一人で帰らせるのが嫌なんだよ』

 まただ。適度に放っておいてくれると思いきや、拓海はこういう甘いことをサラッと口にする。おかげで顔が熱くて仕方ない。

「綾さんと二人だし、そんなに遅くならないから大丈夫だよ」

『夏美が大丈夫でも俺が気になって仕事にならないの。呼ばれてるからもう行くな。ちゃんと場所送っておけよ』

「ちょ、ちょっと。拓海!」

 言うだけ言って、拓海は電話を切ってしまった。


 結婚前は、終電ギリギリまで飲んで駅までダッシュとかあたり前だったのに。一人暮らしをしていたマンションも、駅から五分とかからない距離だったから、コンビニに寄って朝ごはんを調達しつつ、歩いて帰るのが普通だった。

 ただでさえ忙しいのだから、私を迎えに来るために遠回りするくらいなら、早く帰って少しでも体を休めて欲しいと思うのだけれど。


「……仕事にならないって、そこまで気になるもの? 拓海って、ちょっと過保護だよねぇ」

「いいわねぇ、新婚さんは」

「うわっ!?」