「なんだ、ヤキモチか?悪かったよ」

 膝の上で丸くなったこはるを、拓海が撫でて甘やかす。それを見ていた私に、「ここは私の席よ!」とでも言いたげに、こはるがシャーッと威嚇した。

「はいはい、邪魔者は退散しますー」

 こはるがこうなってしまったら、もう完全に二人の世界。私が間に入ることはできない。


 最近の私は、拓海に振り回されてばかりいる。始終ドキドキして、このままじゃ身が持たない。今日はもうさっさとお風呂に入って、寝てしまおう。

 拓海とこはるの邪魔をしないように、空になったコップを取る。足音を立てないようにキッチンに行こうとすると、「夏美」と呼び止められた。

「明日は朝八時半に家を出る。七時過ぎには朝飯食べたいんだけど、本当に作ってくれる?」

「別にいいけど……」

 渋々と言った感じで返事をする私を見て、拓海はまたくすくす笑いをしている。


「よかった。明日の朝楽しみにしてる。おやすみ」

「……おやすみなさい」

 後ろ手にキッチンのドアを閉め、ホッと息を吐いた。


 拓海が、朝ごはんを作ってほしいって。初めて私を頼ってくれた!

 どうしよう。なにを作ろう。拓海は和食派? それとも洋食は? 材料はなにがあったっけ。早速冷蔵庫を開け、メニューを考える。

 ただ朝ごはんを頼まれただけなのに、私ったらどうしてこんなに張り切ってるんだろう。


「だってこれは、ボランティアみたいなものだからね」

 私しかいないのに、言い訳を言ってみたりする。

 結局翌朝は野菜たっぷりのオムレツをメインにした洋食を作った。拓海は全て残さず平らげてくれた。

 その日から、拓海は毎朝私が作った朝食を食べて仕事に行くようになった。