「夏美、俺と同じシャンプーの匂いがする」

 そんなことを言って、私の髪に口づけては、また私の体に回す腕の力を強くする。


「……知ってた? 俺、夏美がこの家にいるってだけで、残業だって頑張れちゃうんだよ」

「どうして?」

「夏美といると癒されるのかな。仕事しながら、ああ早く家に帰りたいなって、そんなことばっかり考えてる」

 私の頭に顔を埋め、くすくすと笑う。拓海はずるい。どうしてそんな、甘いことばっかり言うの……。


「そう言うなら、ちょっとでも早く帰ってきて体を休めたら?こんなに毎日忙しくしてたら、そのうち倒れちゃうよ」

「そしたら夏美、看病してくれる?」

 仕事のときは一分の隙もない、きりっとした顔をしているくせに、上目遣いで私を見て、そんなことを言う。

 こんなふうにくっつくことも、留学生活をしていた拓海からすれば、きっとなんでもないことなんだろうな。


「もうっ、あたりまえでしょ」

 いちいち振り回されることに腹が立って、拓海の体を押しのけた。その途端、どこに潜んでいたのか、こはるが拓海の膝に飛び込んできた。