でも、近いのは体の距離だけじゃない。実際に心の距離も縮めようと、彼なりに努力してくれている。
この間の休みの日になんて、「夏美、約束したろ。囲碁教えてよ」なんて言って、いつの間にか購入していたらしいマイ囲碁セットを披露してくれた。
「拓海、本当に買っちゃったの? 碁盤ならうちの実家にもあったのに」
「それが、俺は形から入るタイプなんだよな。その方がちゃんと練習しようって思える。どうせやるなら、強くなって、いつか夏美と互角に戦えるくらいになりたいからな」
「そこまで到達するのは、そう簡単じゃないと思うよ……」
私だって小さな頃から祖父のそばで、プロ棋士になるべく一生懸命練習に励んで来たのだ。そんなに簡単に、初心者の拓海に追いつかれらりしたら困る。
「人生をかけるくらい、夏美は囲碁が好きなんだろう? 俺もできるようになりたいんだ。一つでも多く、夏美のことを知りたい」
そう言いながら、ぽんっと私の頭に手を載せ、優しい目で見つめてくる。
拓海のこの目に捕まると、私は動けなくなる。指輪の交換をしたときみたいに、心臓が高鳴って仕方がないのだ。


