「名前……まだ慣れない」
私宛てに届いたダイレクトメールには、新しい名前が印字されている。
「すぐに慣れるよ」
拓海はこともなげにそう言って、郵便受けのドアをパタンと閉めた。
「早く行こう、腹減った」
「うん」
エレベーターホールまで拓海と並んで歩いた。
何しろ急な結婚だったので、とりあえずは拓海が住んでいたマンションに私が転がり込むような形になった。
入籍をして一緒に暮らすようになってわかったのだが、拓海の帰りは意外にも早い。今日もほんの少し残業した私を、職場の近くでピックアップしてくれたのだ。帰りにスーパーに寄って、一緒に買い物をして拓海の運転する車で帰ってきた。
「もうちょっと落ち着いたら新しいマンション探すか。それとも夏美は一戸建ての方がいい?」
拓海のマンションは都心にほど近い場所にある43階建てのタワーマンションだ。眺望のいい最上層だし、部屋数も十分にある。私まで個室をもらっているくらいだ。
「今のままでよくない? もっと安いところを探してもいいけど」
「でも、いつまでも賃貸ってのもなあ。……それにそのうち部屋が足りなくなるかもしれないし」
なんて言って、拓海は艶っぽい笑みを見せる。


