「ところで……夏美ちゃん、仕事辞めないよね?」
それまでお祝いムード一色だった庶務係の空気が、添島係長の言葉で一変した。
庶務係はなかなか社員が来たがらない部署だ。私が辞めてしまったら、一気に手が足りなくなってしまう。
「もちろん辞めませんよ。引き続きよろしくお願いします」
仕事の事は、拓海や拓海のご両親にも相談済みだ。拓海はもちろんのこと、ご両親も仕事は続けていいと言ってくれている。
庶務課の人間が減ることはないと聞いて、みんな心底安心していた。
「さっ、みんなこの話は終わりだ。仕事に戻って。お祝いもしなきゃな。悪いけど乾さん日程と会場調整してくれる?」
「わかりましたー。係長が奮発してくれるんですよね!とっておきのとこ押さえときます」
勝手に決めてしまう乾さんに、係長はたじたじになりながらも「お、おう。任せとけ!」なんて言っている。
入籍したのは事実だけれど、私たちの結婚は中身のない偽物だ。こんなに喜んでくれているのに、私はみんなのことを騙しているんだよね……。
祝ってもらえて嬉しい反面、ちくりと胸を刺した罪悪感は、その日いつまでたっても消えることはなかった。


