「たっ、拓海?」

 二人とも指輪を嵌めたのに、拓海が私の手を離してくれない。

「やだ、ふざけてるの?」

 笑い話にして手を離そうとすると、そのまま拓海が指を絡めてきた。いわゆる、恋人繋ぎってやつだ。突然そんなことをされて、顔が熱くなったのがわかった。


「ちょっと、いい加減に……」

「ちっさい、夏美の手」

 拓海は指を絡めたまま、まじまじと私の手を見ている。

「そんなことない」

 私は背丈も標準より少し高いくらい。手のひらだって、消して小さくはない。それなのに、たしかに拓海の手の中にあると、頼りなく細く見えてしまうから不思議だ。


 拓海はそのまま薬指と中指で私の薬指を挟むと、ゆっくりと嵌められたばかりの指輪をなぞった。私の手を、目を細めて見つめながら、数度その仕草を繰り返す。

「ちょっと、拓海くすぐったいよ」

「夏美、指輪外すなよ。会社にもして行くこと」

「えっ、私の仕事知ってるでしょ? 失くしたらいやだから、会社にはしていかないよ」

 庶務の仕事は毎日たくさんの荷物を触るし、ときには水に触れることだってある。会社の中を動き回っていることが多いから、なにがきっかけで、リングをなくしてしまうかわからない。こんな高価なものを失くして、拓海をがっかりさせたくなんかない。