拓海が運転する車がゆっくりと停車する。マンションの入り口近くに車を寄せると、彼はハザードランプのスイッチを押した。

 点滅する赤い光を見て、ああ、もうこの時間は終わりなのかと、自分が残念に思っていることに気がついた。


「明日も仕事なのに、遅くまで連れ回して悪かったな」

「楽しかったよ。わらび餅もありがとう」

 私がちょっと目を離した隙に、買っておいてくれたのだ。本当によく気がつく。

「俺も、ちょっとあり得ないくらい楽しかった」

「大げさ……」

「じゃないよ。本当に思ったから」

 拓海の言葉一つひとつに、胸が高鳴るのがわかる。なんだ、これ。息も苦しい。


「夏美は違う世界って言い方したけど、仕事や実家が絡むとたしかにそうなんだよな。やっぱりどこか無理したり虚勢を張ったりしないといけない場面もある」

「拓海でもそんなことあるの?」

 彼のことだから、どんなに難しい局面だろうと、涼しい顔でなんなくこなしているんだろうなって思っていた。もちろん、人一倍努力もしているんだろうけれど。